街中で着物姿の方を見かけると、たまに裄丈が短めで、手首を結構出している方が見受けられます。
よく「裄丈は手首のくるぶしまでがちょうどよい」といわれますが、ご家族から譲り受けたり、アンティーク着物を買ったりした場合、裄丈が合わないまま着てもよいのでしょうか?
着物が増えるたび、毎回お直しに出すのは経済的にも大変。
かといって、裄が合わないのを気にするあまり、せっかくの着物を着る機会が減ってしまうのはもったいないですね。
そこで今回は、
など、着物の裄丈のサイズや裄直しについて詳しくご紹介します。
着物の裄丈とはどの部分?
着物のサイズを測る際、特に重要といわれているのが、身丈(みたけ)、裄丈(ゆきたけ)、袖丈(そでたけ)の3か所。
なかでも、裄丈は「両手を広げたときの首の付け根(ぐりぐり)から、肩を通って手首の付け根(くるぶし)まで」の長さをさします。
裄丈長さについては後程詳しくご紹介しますが、着物の上から測るときは、「衿(えり)の中心の背縫いの部分~袖(そで)の先端までの直線距離」と覚えておきましょう。
着物の袖の長さ(袖丈)と裄丈は違うの?
引用元:Pinterest-日本
一方、袖丈とは、上図のとおり「袋状になっている袖の上下の長さ」のこと。
「身長の1/3」が目安とされ、既製品の着物は、袖丈49㎝(1尺3寸)でほぼ統一されています。
着物の寸法を測る場合の単位は、鯨(くじら)尺。
もちろん体型によって微調整が必要ですが、身長155~165㎝の場合は、袖丈は49㎝が目安となります。
それ以上、または以下の身長なら、49㎝を基本に、5分(約2㎝)~1寸(約3.8㎝)ほど、足し引きするとよいでしょう。
着物の裄丈・袖丈が短いとどうなの?
着物を着て家事や労働をしていた昔は、着物の裄丈は動きやすいよう短めに仕立てることが多かったようです。
それが時代を経て、「着物の裄丈は、手首の尺骨(手首の小指側に突き出た骨の部分)が隠れるくらいが美しい」という考え方が一般的になりました。
とはいえ、買い物や気軽な会食などのカジュアルなお出かけ用として、自分が納得しているのなら、着物の裄丈や袖丈が短くてもそれほど気にする必要はありません。
一方、フォーマルなシーンなら、短めの裄丈や袖丈の着物は注意が必要。
周囲との調和を守り、相手に不快感を与えないよう、適正に着こなすのがマナーです。
着物の裄丈が長いとどう見える?
裄が短いなら、着付けである程度調整することができますが、裄が長いタイプは洋服と違って袖を折ったり、たくし上げたりすることができません。
例えば、普段Sサイズの着物を着ている方が、手が長めの方向きの「裄丈72㎝」の着物を着た場合、手の甲まで隠れてしまって見栄えが悪くなることも。
最近は裄丈を長くとり、指先まで隠してしまう「萌え袖」スタイルが人気のようですが、裄丈をあまりにも長くしてしまうと、ときにだらしのない印象を与えてしまう恐れがあります。
着物の裄丈の許容範囲は?
引用元:Instagram-@kimonogrowth4824
裄丈は、背の中心から袖口までの長さをさしますが、実際に測った自分の裄丈に対して、プラスマイナス(±)3㎝程度が一般的な許容範囲。
着物は、実物を見ながらお店で選ぶのが望ましいのですが、例えば、アンティーク着物などをネットや通販などで購入する場合、お直しなしでも着ることができるかどうか、しっかりサイズを確認しましょう。
着物の裄丈の平均|日本人女性の標準は?
小柄な方が多かった昔に比べると、今の日本人女性の体形は各段に変わり、手足は長く、身長も高い方が増えてきています。
現在の日本人女性の平均身長は、158㎝弱。
体格や肩幅、腕の長さなどにより、多少の差異はありますが、裄丈は「肩幅の半分」+「袖巾」で計算するので、平均65~66㎝が目安となります。
裄丈70の着物は高身長用?
引用元:Instagram-@minami_sp2010
「裄丈70㎝」の着物は、身長165~168㎝で、普段LLサイズの洋服をよく着ている方におすすめ。
さらに高身長(171㎝以上)の方でしたら、ひとつ上の「裄丈72㎝」の着物も合わせて検討してみましょう。
着物の裄丈の測り方を解説
裄丈は、利き腕を斜め45度に上げた状態で、首の付け根の中心から肩の頂点を通って、手首の骨(ぐりぐり)までの長さを測ります。
一般的な裄丈は、測った長さから3㎝程度マイナスした64~66㎝がスタンダード。
体型別では、やせ型や標準体型の方は、実際に測った裄の長さ±1~2㎝以内、逆に、ふくよかな体型の方なら、採寸した裄の長さより±2~3㎝長めを選ぶと、ちょうど良いと言われています。
採寸するときに、腕を真横まで上げてしまうと着物が短く、逆に、腕を真下に下げてしまうと長すぎてしまうので注意してくださいね。
身長別・裄丈の目安まとめ
引用元:Pinterest-日本
身長別・裄丈の目安は下記のとおり。
体格や肩幅、手足の長さ、バストサイズなどによって、裄が合わないことがあるので、自分の体格にしっくりこないようなら、セミオーダーやオーダー着物を検討してみるのもよいでしょう。
身長とサイズ | 裄丈の目安 |
---|---|
155㎝前後(Sサイズ) | 64~65㎝ |
160㎝前後(Mサイズ) | 66~68㎝ |
163㎝前後(Lサイズ) | 68~70㎝ |
165~168㎝前後(LLサイズ) | 70㎝弱 |
171㎝前後(TLサイズ)) | 72㎝ |
着物の裄丈はお直しできる?
引用元:Pinterest-日本
着物の裄丈直しは、裄を短くする場合は比較的対応しやすいのですが、長くする場合は、着物の状態によってできないことがあります。
また、お直しを想定してつくられている手縫いの着物に対し、針が布地を貫通するため、縫いめが目立ってしまうミシン縫いの着物は、お直しが難しいと言われています。
裄丈直しができるかどうかは、着物をほどいてみないとわからない場合もあるので、詳しくは専門店に相談してみましょう。
裄丈直しができない主な例
- 袖付けの縫込み(縫い代の中に入れ込んで縫われた部分)に、裄を伸ばす必要量の生地が入っていない
- 生地が退色し、傷んでいる
- 着物の柄合わせや着物全体のバランス上、裄を伸ばすと問題がある
- ミシン縫いでつくられている
着物の裄丈直しの料金は?
引用元:Instagram-@kimono__onaoshi
裄直しを専門店に依頼する場合「袖・肩巾とも直す」「袖巾のみ直す」「肩巾のみ直す」など、着物の状態によって直し方が変わることがあります。
下記に平均的な加工料金をまとめましたので、参考にしてください(事前に見積してもらっても、実際に着物をほどき、状態を見てから金額が変わることがあります)。
着物の種類 | 加工料金(税別) |
---|---|
振袖 | 4,950~17,000円 |
留袖・色留袖(比翼付) | 4,950~19,000円 |
訪問着 | 8,000~16,000円 |
その他袷(あわせ) | 5,500~16,000円 |
単衣(ひとえ) | 4,950~14,000円 |
※裄出しをする場合、元の筋を消すための「筋消し料」が別途かかる場合があります。
着物の裄丈の直し方!詰め方はどうするの?
引用元:Instagram-@kimono__onaoshi
着物の裄丈が5㎝以上長い場合、着物を着るたびに毎回調整するのは難しく、着崩れもしやすいので、裄詰めをしておくのがおすすめ。
主に「袖巾のみ短く直す」、「袖巾と肩巾とも短く直す」の方法があり、袖を外して振り(袖付けから袖下までの、あいた部分)も解き、サイズを調整する方法が主流。
その際、肩巾と袖巾のバランスをみながら詰める必要があります。
着物の裄丈が足りない場合の出し方は?
裄丈を出す場合は、袖、身頃ともに縫込みが十分あり、裄丈を出したい分だけ、必要量の生地があるかの確認が必要。
袖付から肩幅の範囲で直す(~1.5㎝くらいまで)場合は、袖付けの止めを残したまま袖と身頃をほどき、袖の身頃側と身頃の袖側の縫込みを広げ、また縫い合わせることになります。
「袖と肩巾とも直す」「袖巾のみ」「肩巾のみ」の3種類の方法があるので、詳しくは専門店に確認を。
着物の裄丈のサイズ目安まとめ【種類別】
下記に、着物や浴衣の裄丈の目安をまとめました。
種類別や男性用、お子様用などさまざまなパターンがあるので、裄直しをする際の目安にしてくださいね。
【浴衣の裄丈】
着物と違って浴衣は夏に着用するもの。
裄丈の目安は着物と同じですが、袖が長すぎると季節感が失われてしまうので注意しましょう。
【浴衣】身長とサイズ | 裄丈の目安 |
---|---|
155㎝前後(Sサイズ) | 64㎝前後 |
160㎝前後(Mサイズ) | 65㎝前後 |
163㎝前後(Lサイズ) | 67㎝前後 |
165~168㎝前後(LLサイズ) | 68㎝前後 |
171㎝前後(TLサイズ) | 69㎝前後 |
【着物の長襦袢の裄丈】
長襦袢の裄丈は、着物よりもマイナス2分(2分=約0.75cm)が目安です。
【着物の長襦袢】身長とサイズ | 裄丈の目安 |
---|---|
155㎝前後(Sサイズ) | 63㎝前後 |
160㎝前後(Mサイズ) | 64㎝前後 |
163㎝前後(Lサイズ) | 66㎝前後 |
165~168㎝前後(LLサイズ) | 67㎝前後 |
171㎝前後(TLサイズ) | 68㎝前後 |
【着物の羽織・着物コートの裄丈】
着物用の羽織や着物コートの裄丈は、着物の裄より0.5センチ(約1分)長めがおすすめ。
【着物の羽織・着物コート】身長とサイズ | 裄丈の目安 |
---|---|
155㎝前後(Sサイズ) | 65~66㎝ |
160㎝前後(Mサイズ) | 67~68㎝ |
163㎝前後(Lサイズ) | 67~68㎝ |
165~168㎝前後(LLサイズ) | 68~69㎝ |
171㎝前後(TLサイズ) | 70~71㎝ |
【男性の着物の裄丈】
男性用着物も女性用と同様、腕を斜め45度位に上げた時に手首のくるぶしが隠れるくらいが目安です。
【男性の着物】身長 | 裄丈の目安 |
---|---|
165㎝前後 | 70.1~71.2㎝ |
170㎝前後 | 70.1~71.2㎝ |
175㎝前後 | 73.9~75㎝ |
180㎝前後 | 75.8~77.7㎝ |
185㎝前後 | 77.7~78.8㎝ |
【七五三の着物の裄丈】
子ども用の着物は、成長に合わせてサイズ調節ができるよう大きめに仕立てられています。
着物の裄(着物の衿の中心~袖までの長さ)から、腕の長さ(首の後ろの中心~手首まで)を引いた長さが、肩上げ分の目安。
【七五三の着物】身長とサイズ | 裄丈の目安(肩上げ後) |
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95~105㎝(3~4歳) | 41~44㎝ |
105~115㎝(5~6歳) | 46~48㎝ |
115~125㎝(7~8歳) | 48~50㎝ |
【3歳の子どもの着物の裄丈】
肩上げ後の標準サイズです(男の子・女の子とも共通)。
裄丈を測る際は、左右計測して平均値を出すとよいでしょう。
【3歳の子どもの着物】身長 | 裄丈の目安(肩上げ後) |
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95㎝ | 41㎝ |
【茶道の着物の裄丈】
茶道をされている方は、立ったり座ったりする動きが多いため、後幅や衽幅(着物の前身頃についている衽の幅)をあまり広げずに、前幅を広くするのが一般的。
裄丈は、手首のくるぶしが隠れる程度にする方が多いようですが、水を汲んだり、茶碗を洗ったりする水仕事なども多いので、お茶会にある程度慣れて様子がわかってから、先生に相談して決めるのがよいでしょう。
【茶道の着物】身長とサイズ | 裄丈の目安 |
---|---|
155㎝前後(Sサイズ) | 64~65㎝ |
160㎝前後(Mサイズ) | 66~68㎝ |
163㎝前後(Lサイズ) | 68~70㎝ |
165~168㎝前後(LLサイズ) | 70㎝弱 |
171㎝前後(TLサイズ) | 72㎝ |
【弓道の着物の裄丈】
背中の中心から手首のくるぶしまでの長さ+3~4cmの裄丈が目安ですが、夏物の場合は、多少短かめでもOK。
腕を下ろした際、袖から腕が出過ぎてしまわない様に調節しましょう。
【弓道の着物・女性】サイズ | 裄丈の目安 |
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155㎝前後(Sサイズ) | 63~64㎝ |
160㎝前後(Mサイズ) | 65~66㎝ |
163㎝前後(Lサイズ) | 67~68㎝ |
165~168㎝前後(LLサイズ) | 69~70㎝ |
171㎝前後(TLサイズ) | 69~70㎝ |
まとめ
着物の裄丈は、フォーマルな場においては長すぎても短すぎてもNGですが、カジュアルな普段着使いであれば、ある程度、裄丈が短くても問題ありません。
あえて裄丈直しをせず、そのまま着こなすのも素敵ですが、着物は、次に着る人がサイズ直しできるよう、もともと仕立てられているもの。
改めて、着物の使い勝手の良さを感じて頂けたのではないでしょうか?
ご家族や知人から古い着物を譲り受けたり、街中でアンティーク着物を見つけたりしたら、裄丈の測り方や目安となるサイズを参考に、裄丈を確認してみてください。
裄丈を調整することで、より着物の着心地が良くなることでしょう。
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