能の演目『隅田川』のあらすじは?見どころも解説!

能の演目『隅田川』は、

人買いにさらわれたわが子・梅若丸を探し、

都から東の果ての隅田川までたどり着いた

狂女の悲劇を描いています。

 

『隅田川』は

雑能物というジャンルに分類され、

能の演目の中では比較的一般のドラマに近く

また現在進行形で

わかりやすい形態のものといえます。

 

それだけに狂女のその悲しみは

感情移入しやすいものといえるでしょう。

 

今回はそんな能の演目『隅田川』の

あらすじや見どころをご紹介します。

隅田川のあらすじは?梅若丸と母親はどうなった?

 

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能の演目『隅田川』のあらすじを

ご紹介します。

 

武蔵国と下総国の境を流れる隅田川。

その日最後の渡しをしようと

船頭が客を待っていると、

旅人に交じり、ひどく憔悴した女がいます。

 

聞けば女は都の者で、

人買いにさらわれ

行方知れずになったわが子を探して

はるばるここまで来たと言います。

 

遊狂を見せるよう船頭に言われた女は、

伊勢物語の第九段

「都鳥」の古歌を引き合いに、

東下りの経緯を美しく語り、

一同を感心させました。

 

船中、船頭はちょうど一年前の今日、

人買いにさらわれた子どもが

ここで捨てられ亡くなったという

悲しい話を語り出します。

 

子どもの名前は梅若丸、

年は12、3歳で、

吉田のなにがしの子…。

 

話に聞き入っていた女は

その瞬間顔をはっとさせ、

それは探していたわが子だと言い

深い悲しみに沈みます。

 

哀れに思った一同は、

子どもの眠る塚の前で念仏法要を営むと、

女はわが子の幻を見ます。

 

抱きしめようと近づくものの、

影はその両手をすり抜け、

ただそこには草茂る塚があるだけでした…。

隅田川の見どころはここ!

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能は、

神をシテとする脇能物、

戦を扱う修羅物、

優美な舞を施した鬘物、

終演のクライマックスを彩る切能物、

これらに分類されない雑能物とありますが、

能『隅田川』は雑能物、

またその中でも狂女物と呼ばれます。

 

能でいう「狂」とは

主に子どもが行方知れずとなった悲しみから

心を乱す様子をさすことが多く、

現存する狂女物の中では唯一

生きてわが子と

再会することができないという

悲劇の物語です。

 

まさにこの深い悲しみこそが、

人々の心をつかんで

離さないともいえるでしょう。

 

また、船頭と女との掛け合いで、

まるで劇中劇を繰り広げるように

『伊勢物語』を語るさまなども

隠れた見どころであり、

従来の能には見られない

近代的な構想ともいえ、

『隅田川』が

作者観世元雅の最高傑作ともいわれる

そのゆえんでもあります。

 

この物語は、

歌舞伎、浄瑠璃、

ひいてはオペラにまで展開されていますが、

演出にリアルさを追求しない能だからこそ、

悲しさは美しさとなり

舞台を彩っているとも感じます。

 

隅田川の謡の詞章の一部を現代語訳付きで紹介!

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出展:http://www.hakusho-kai.net/index.html

 

『隅田川』の謡の詞章のうち、

おもしろいことを言わないと

船に乗せないという船頭と

それに対し

粋な言葉を返す狂女との掛け合いを、

ほんの一部となりますが

現代語訳とともにご紹介します。

 

狂女)

うたてやな隅田川の渡守ならば、

日も暮れぬ舟にこそ乗れと承るべけれ。

かたの如くも都の者を

舟に乗るなと承るは

隅田川の渡守とも

覚えぬ事のたまひそよ。

 

ああ情けない。

隅田川の渡守ならば、

伊勢物語の渡守のように

「日も暮れた、早く舟に乗れ」と

言ってくださりそうなものなのに、

これでもともかく都の者ですのに、

「舟に乗るな」と仰るのは、

隅田川の渡守とも思えない

不釣り合いなことを仰るものだ。

 

渡守)

げにげに

都の人とて“名にし負ひたる”やさしさよ

 

いかにも都の人だけあって

“名にし負う”優しさだ。

 

 

狂女)

なうその言葉は

こなたも耳に留まるものを。

かの業平もこの渡りにて。

『名にし負わば。いざ言問わん都鳥。

わが思ふ人は、ありやなしやと。』

 

おお、その言葉こそ

私の耳にも留まるのです。

あの業平もこの渡場で

『名にし負わば…

都鳥よ。

都という名がついているのならば、

都の事を知っているだろうから尋ねるが、

わが思う人は無事であろうか、

どうだろう。』と、お詠みになりました。

隅田川の代表的な場面を動画で紹介!

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作者観世元雅の父・世阿弥は、

この『隅田川』について

「(子どもとはいえ亡者のため)

子方を出さないほうがよい」

と言ったのに対し、

元雅は「それはできない」

と語ったといわれており、

現在でも子方なしの演出を

行うことがあります。

 

こちらの動画では子方ありの演出で、

幻である梅若丸を

抱きしめようと女が近づく場面です。

【動画】 能 (観世流)『隅田川』国立能楽堂

 

まとめ

 

個人的に

悲劇は能の得意分野であると思っています。

私は能だけでなく、

現代劇も歌舞伎も浄瑠璃もオペラもバレエも

大好きですが、

悲しい話は苦手で避けて演目を選びます。

 

ただ能だけは、

見せすぎないからこそ、

悲しみだけが強調されることがなく

静かな美しさとして

入ってくるように感じるのです。

 

悲劇こそ

ぜひお能で楽しんでいただきたいですね。

 

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