手を大きく開き、
ぐるりと首を回し、
パッと身体の動きを止め、
グッと睨んだ表情を作る。
これが、歌舞伎の見得ですね。
この見得の種類の中に
「にらみ」
というものがあります。
今は、市川海老蔵だけが行う
演技の形なのですが
どんなものかご存知でしょうか。
単純ににらみつける・・というだけではなく、
そこには奥深い意味が隠されているのです。
にらみの由来などを探ってみました。
成田屋・海老蔵の代名詞!歌舞伎のにらみってどんな技?
出典:http://geijutsu-kan.com/index.html
まず、歌舞伎の見得が
どんなものか確認してみましょう。
舞台の上手、
”附け打ち”と呼ばれる拍子木で
床(の上の板)を叩く
「バタッ! バタッ! バーッタリ」
という音に合わせて、
役者が身体の動きを止め、
首をぐるりと回して、正面に向き
睨むような表情でピタリと止まります。
この見得は、舞台の演出方法の一つであり、
話の流れの中で行われます。
映画でいえばストップモーションの
ような効果を狙ったもので、
クライマックスで観客の視線を集めるために
行われる演技なのです。
ところが、成田屋の「にらみ」は
同じように演技をするのですが、
通常の演目の中で行われる演技ではありません。
襲名やお正月など
お祝いの際に祝賀として行うのです。
「ひとつ睨んでご覧にいれましょう!」
と言って、片肌を脱ぎ
左手で三方を掲げ、
右手はゲンコツのように握って胸の前に置き
そしてぐーっと睨むのです。
その時、片目は寄り目に
もう一方の瞳は目の中央にあります。
まず、普通の人にはできない
目の位置ですね。
にらみは成田屋だけに受け継がれる技なの?
出典:http://www.d3.dion.ne.jp/~yutasaki/kabuki/
海老蔵ではなくても、
男役の歌舞伎役者なら、
片目は寄り目、片目は中央という
見得のための特殊な目の動きはできます。
つまり、にらみのポーズや表情は
技としては他の役者さんもできるのです。
ただし、実際ににらみをするのは
成田屋の役者だけです。
成田屋は宗家と言われるように、
歌舞伎の世界では特殊な家です。
初代の團十郎が、
正義感もあり、力強く勇壮な人物を
表現する荒事の演技を確立しました。
力を入れて「にらむ」ポーズも
荒事の演技の一つの特長です。
その荒事の芸を代々受け継ぐ成田屋が
「にらむ」ことにこそ、
大きな意味があるのです。
海老蔵以外ににらみをする役者はいるの?
にらみをする役者は成田屋の役者だけです。
12代目の團十郎が亡くなった今は
その息子の11代目の海老蔵だけが、
にらみをする役者ということになります。
ゆくゆくは、海老蔵の息子の勧玄くんが成長し、
成田屋の役者として舞台に立つ日がくれば、
にらみをすることになるでしょう。
勧玄くんが海老蔵の名前を襲名する日には
長い睫毛の大きな眼で
凛々しいにらみを、見せてくれることでしょう!
楽しみですね!
歌舞伎のにらみの由来や起源は?いつから始まったの?
市川團十郎の屋号は代々成田屋です。
成田山新勝寺との縁が深いことから
成田屋を名乗るようになったのです。
初代の團十郎は
なかなか子供ができなかったので
成田山新勝寺に参詣したところ
程なく男の子が生まれました。
以降、成田山の熱心な信者になったのです。
成田山新勝寺には不動明王が祀られています。
初代團十郎は子供を授かったことに感謝し、
『成田不動明王山』をという演目を上演します。
これが大変好評で、大当たりしました。
その後も、『成田分身不動』を演じるなど、
不動明王にまつわる演目への
出演を重ねてきました。
團十郎が演じる不動明王の姿を観た観客は
思わず手を合わせて拝んだという
話も伝わっています。
おそらく、その不動明王の演技の中から
にらみが生まれ、
そして、成田屋の代々に大切な演技として
受け継がれたてきたのではないでしょうか。
そして、時代が変わっても
にらみの演技は特別なものとして
人々は楽しみにしているものなのです。
歌舞伎のにらみにはどんな意味がある?
成田屋のにらみは
祝賀の際に行われるのですが
おめでたいという意味よりも
邪気を払うという意味が込められています。
この睨む姿を見た人は
一年は風邪をひかないと
言われています。
私が海老蔵のにらみを観たのは、
2013年の新春浅草歌舞伎の口上です。
目が大きく、
さらに眼力も強い海老蔵の
にらみは迫力十分。
風邪に限らず、大概の病気の菌は
逃げてゆくのではないかという力強さです。
海老蔵のにらみは
恒例の行事というわけではないので、
いつでも観られるというものではありません。
襲名披露公園やお正月など、
祝賀のときに限られます。
海老蔵がにらみをする機会があれば、
見逃すことのないように!
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