近年、茶道具関連の記事や、講演会の登壇者として、
「指物師 一瀬小兵衛」という名前を目にする機会がありませんか?
私は、以前にNHKの茶道の番組で、小兵衛さんの親子が
指物について語るシーンを観てましたが、
その朴訥とした語り口と誠実な制作姿勢が強く印象に残りました。
指物師一瀬小兵衛がどのような職人で、
指物師としてどのような仕事をされているかを改めて調べてみました。
一瀬小兵衛とは
一瀬家は京指物師の家で、千家十職の駒澤利斎の別家に当たります。
当代は5代で、家元にも出入りして箱や棚などを制作しています。
また、御子息の直和氏も後を継ぐべく、同志社大学経済学部を卒業後すぐに、
父上について修行を始め、現在は親子で活躍しています。
代々に受け継がれる木材
指物師は、茶道具では、棚、長板、茶箱、菓子器、煙草盆、
木地水指、風呂先などを制作します。
指物師の仕事は木材選びから始まります。
棚や箱の素材となる桐、桑、松など、丸太の状態で状態を
見極めて購入します。
そこから、実際の制作に取り掛かるまでに、長い年月がかかるのです。
まず、10年間は、雨ざらしの状態で外に保管します。
これは、制作後、年月を経て黒や赤に変色した部分が
発生しないように、十分に木材に含まれている「アク」を抜くためです。
その後、屋内で10年ほど乾燥させます。
乾燥が不十分だと、木材に伸縮が発生して歪んでしまう為です。
つまり、丸太を購入してから最低でも20年ほど経過しないと、
製品作りには取り掛かれません。
一瀬家では百年以上前の材木も素材として保管しているそうです。
当代は、先代、あるいは先々代の選んだ丸太を使って制作しています。
指物師の家は代々続かないと、よい材料が手に入らなくなってしまう、
厳しい家業なのです。
最もこだわるのは木目
あく抜き、乾燥ができた木材から使う材料を選択し、道具を制作していきます。
その際、指物師が最もこだわるのが木目です。
棚や水指は木目が、そのまま見所になります。
自然が生み出す木目の流れるような模様などは、
蒔絵や漆とは異なった美しさがあります。
指物師は、木目を見て、その美しさを活かすためには、
どの部分をどのように使うかを考慮して、材料を選択します。
木目選びが、指物師の腕の見せ所の一つになります。
指物は大変デリケートな作業
指物師の1日の作業は、カンナを研ぐことから始まります。
寸分の狂いもなく木地を削る為には、切れ味のよい刃物が必要です。
その為、道具の手入れは欠かせません。
材木は必要な大きさにのこぎりで切り、カンナで削ります。
木材の硬さ、反り方、ねじれなど、各材木の個性を見ながら、
板が平面になるように削っていきます。
ただし、木を削ることで木目が動き、時間を置くと
新たに反り・歪みが発生します。
1枚の板でも、毎日少しずつ作業をしては寝かせ、
1週間程度かけて平板に削るのだそうです。
基本は箱
箱は、1枚の板を寸法に切り組み立てます。
少しずつ、何度も削りながら、蓋と本体がピッタリと組み合うように調整していく、
たいへん手の込んだ仕事です。
正方形の箱の場合は、蓋を90度、180度、270度回転させても、
本体にしっかりはまるように仕上げるそうです。
箱がしっかりと組み立てられるまでに、10年かかると言われます。
箱が満足できる仕上がりができるようになれば、
指物師として一人前と言われるそうです。
指物師は忍耐力が必須
ミリ単位で削っては、何度も何度も組み合わせて確認していく・・、
短気な私には気が遠くなりそうな作業です。
指物師の仕事は忍耐力が試される丁寧な仕事の積み重ねだと知ると、
指物の棚を見る時の目が変わってきますね。
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