能のプログラムには、演目名と共に
必ず流派の名前が記載されていますね。
それは、同じ演目でも
流派によって演出が異なるからなのです。
前と同じ演目を観ても
「あれ?前と衣装が違うな?」
「ここで手を挙げたっけ?」
と違いを感じる場合は
演者の流派が違うからでしょう。
能は、その演出の違いを見比べるのも
面白みの一つです。
能で主人公を演じるシテ方には
5つの流派が存在します。
流派の歴史と特徴をそれぞれご案内します。
シテ方の五流派って?どういう歴史がある?
出典:http://blog.shinise.ne.jp/staff/
能では主人公をシテと呼びます。
多くの場合は、面をつけており、
神や亡霊などこの世のものではないものを
演じます。
因みに、シテの相手役を務めるのがワキ。
ワキは僧侶など今を生きている人間で、
シテのこの世に対する思いを聞き出す役です。
能は完全な分業制度で成り立っている
芸能です。
シテを演じるシテ方はシテを専門的に演じ、
ワキを演じるワキ方はワキを専門で演じます。
因みに、能の間に演じられる、
狂言を専門に演じる狂言方もいますね。
シテ方、ツレ方、狂言方、
それぞれに流派があり、
シテ方には五つの流派があります。
室町時代から活動する
観世流、宝生流、金春流、金剛流。
そして、江戸時代に金剛座から分かれた
喜多流の五つです。
観世流
能を大成した観阿弥・世阿弥の親子を祖とし
甥の音阿弥が後を継いだ流派です。
室町時代より幕府の保護を受け、
江戸時代に定められた四座の中でも
筆頭の位置を占めました。
現在も五流最大の勢力をもっており、
流儀のなかにも、
観世の血筋である観世宗家と
その分家筋があります。
さらに、明治維新後の混乱期に
能楽界を支えた梅若家
京都中心に活動する片山家と
いった派があるのが特徴です。
そして、話題を呼んでいるのは
観世能楽堂です。
銀座松坂屋跡地に誕生した複合施設
GINZA SIXに開場しました。
2015年3月まで渋谷の松濤に構えていた
観世堂の総檜の舞台が
そのまま移築されるそうです。
東京の流行の中心銀座への進出で
どんな能が演じられていくのか
注目を集めています。
宝生流
観阿弥の兄、宝生大夫が祖とされる流派です。
徳川幕府5代将軍綱吉は、
能を大変にこのみましたが、
特に宝生座を贔屓にしました。
その頃より加賀藩も、
宝生流を重用したので、
現在も北陸では宝生流が
大きな勢力をもっています。
重厚な芸風が特徴です。
優美な節回しの謡で知られ
「謡宝生」と呼ばれます。
尚、宝生流には、ワキ方の流儀としての
宝生流もあります。
区別するために、ワキ方の方は
下掛宝生流と呼ばれています。
金春流
大和猿楽の一派に始まり、
歴史的には一番古い能の流派と
言われています。
観阿弥らが京都に進出したのちも、
ながらく奈良を本拠地としていました。
世阿弥の女婿であった
金春禅竹のころから
徐々に京都に進出します。
禅竹は、世阿弥から
「拾玉得花」等の伝書を相伝し、
世阿弥の亡くなった後は、
金春流が人気を集めます。
禅竹は、金春流の中興の祖と
呼ばれています。
能を大変好んで自らも舞ったという
秀吉の時代には、
金春流が公認の流儀となり
各地の武将たちにもてはやされました。
古来の型を残す雄渾な型が特徴です。
金剛流
古くから法隆寺に属した
猿楽の坂戸座を源とした流派です。
室町から江戸期にかけてはふるわず、
喜多流が金剛流から分派しています。
現在、京都に能楽堂をもち、
五流の中で唯一関西を中心に活動しています。
金剛流の芸風は、
豪快な動きの中にも華麗・優美さがあり
舞金剛といわれます。
所蔵する能面・能装束に
名品が多いことでも知られ
面金剛とも言われています。
喜多流
江戸初期に 徳川秀忠に庇護を得ていた
喜多七太夫が 金剛流から分かれて
確立した流派です。
七太夫は、大阪夏の陣で
豊臣方について戦いました。
しかし、その芸の素晴らしさから
徳川家に許されて、江戸に呼び出され
従来の四座と別に一流の創設を
認められました。
徳川家光からも後援を受け、
地方の大名に好まれました。
武士好みらしい、
質朴かつ豪放な気迫に満ちた芸風です。
流派間で交流や共演はあるの?
シテ方は主役を演じることを専門にしています。
そのため、シテの共演は、
主役が二人・・ ということに
なってしまいます。
シテ方はツレという脇役も演じますが、
流派によって演出が異なるので、
シテとツレが異なる流派のこともありません。
伝統的な演目で、違う流派のシテの能楽師が
共演することはないのです。
他流派と共演することを目的として
新作を作成したり、
演出を変更することはあるようですが、
本当に稀なケースです。
だからと言って、
流派同士で反目しあうというわけでは
ありません。
各流派の能楽師の方は、皆さん、
日本能楽協会に加入しています。
こちらは能楽の普及は教育を
目的とした団体ですので
そういう面での交流は盛んに行われています。