能で使われる衣装のことを
能装束といいます。
華やかな色を多数使った
大振りの衣装は
見るからに豪華絢爛です。
能楽が武士の式楽となっていた江戸時代。
大名家は、豪華な能衣装を揃えることで
「戦の準備などしていません」
と幕府にアピールしたとも言われています。
そんな豪華な能装束は役柄によって
使う衣装が異なります。
能衣装の種類、特徴をご紹介します。
能装束の種類と使い分けは?代表的なものを紹介します!
演者が身に着ける能装束は
上着、着付け、袴で構成されています。
それぞれに、種類があり、
身に着けている人の
身分や性格を表現します。
一度、整理してみましょう。
上着
出典:http://blog.gofukugura.com/
文字通り、一番上に身に着ける上着。
華やかなものが多いのが特徴です。
●唐織
金糸、銀糸など10色以上の色糸を使って
織り上げ、
文様が浮織りになっているのが特徴です。
袖は小さい小袖で、
主に、女性の役に用いられます。
●長絹
袖が大きな広袖で、
主に女性の役で用いられます。
男性の役では
公家、上級武士、優美な武将の霊など
身分の高い男性に用いられます。
●水衣
薄い絹の布で作られた広袖です。
丈は膝くらいまでで、
色は、白・紫・茶・黒・紺・浅黄など
基本的に抑えた色目です。
老人や僧侶の他に
男女の日常着として用いられます。
●直垂
広袖で、
麻・絹地に染めの模様が描かれています。
武士の礼服として用います。
●素袍
地は麻布で単衣です。
武士の日常服、
一般男性の平服として使います。
●狩衣
丸襟の広袖で、
金・襴・緞子の幾何学的な総柄です。
大臣・天狗・鬼などの
威厳ある強い役に用いられます。
着付
着付けとは、上着の下に着るもので
袖は小袖です。
●摺箔
金や銀の箔で模様をつけたもの。
女性に用いられます。
●縫箔
刺繍と箔で多様な模様をつけた
豪華な衣装です。
身分の低い女性役が腰の周りに
巻きつける腰巻や
優美な男性役に用いられます。
●厚板
地模様に幾何学的な模様が
施されているもので、
主に男性の霊的な役に使われます。
袴
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袴にも種類があります。
●大口
厚手の生地で作られ、両横に広がった袴です。
若い神、貴族などの男性役が用いるほか
女性役にも用いられます。
●半切
大口に似た袴で華麗な模様が施されています。
神、鬼、天狗、武将の霊など、
男性の役に用いられます。
●指貫
膝の下で紐を閉めて袋状にする袴。
直衣や狩衣の下に使われます。
「翁」のほか、
高貴な身分の役に用いられます。
能装束の着付けでも意味が変わってくる!その種類は?
能装束は、その着方によっても、
表現する役柄が異なっています。
●着流し
女性役の代表的な扮装で、
袴を付けずに唐織などを着る方法。
今の女性の着物の着付けと
似た着方です。
●腰巻
小袖の上半身部分を
袖を通さずに腰に巻き付ける方法です。
室町時代の宮中の女性の着つけ方法を
取り入れたものだそうです。
●壺折
出典:http://blog.canpan.info/nohbutai/
唐織の裾を膝上ぐらいに引上げた着方です。
主に女性の着方で、下は腰巻にするか
大口袴を身に着けます。
上下の模様のコントラストが美しい
着方です。
●肩脱
長絹などの右袖を脱いで後に巻き込む方法。
動きやすい姿を示す場合と、
気狂いした人物を現す時があります。
色や文様を見れば、役や身分がわかる?
能装束には、多種多様な色が使われますが、
紅色を注意してみてください。
紅が入る衣装は「色入り」といわれ、
若い女性を現しています。
紅色が入らないのは「色無し」
中年以上の女性役に使われます。
能装束の役による装いを演目と画像で紹介します!
出典:http://blog.livedoor.jp/kgaroku/
「道成寺」は、女性の怨念を表現した話。
白拍子が舞ながら鐘に飛び込み
鐘を吊り上げると蛇の姿に
変わっています。
鐘に飛び込んだ後の後シテの姿は、
三角形の鱗模様の摺箔の着付けに
縫箔を腰巻きにします。
「葵上」の後シテも同じ鬼女の姿です。
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「羽衣」は、羽衣伝説を基にした話。
天に帰る為の羽衣を返してもらうために
天女が舞を舞います。
摺箔の着付けに縫箔を腰巻きにし、
さらに上に長絹を身に着けます。
「清経」は、源平合戦で討ち死にした平清経の話。
夫の死を嘆き悲しむ妻の前に
亡霊として現れます。
清経は武士の姿で、
厚板の着付けに大口をはいています。
長絹を肩脱ぎにすることで、
亡霊だということを表しています。
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「翁」は、「能にして能にあらず」といわれ、
物語めいたものはありません。
演者は神となって天下泰平、
国土安穏を祈祷する舞を舞います。
翁は長い鬚の「翁」という面を付け、
狩衣に指貫で高貴な身分を表します。
「土蜘蛛」は、源頼光にとりついた
土蜘蛛の精を退治するお話です。
みどころは、蜘蛛の精が和紙でつくられた
蜘蛛の糸を投げる場面です。
衣装は、霊的なものを表す厚板の上に
法被をつけ、袴は半切です。
能は、つい、能面にばかり目が向きがちですが、
能装束も様々な演出上の工夫が凝らされており
身逃す訳にはいかないのです。