骨董品の鑑定番組を観ていると、
「箱が付いてたら、もっと評価が上がるのですが・・」
というコメントがよく出てきますね。
箱には、作者や所有者などが墨で「箱書」を書き付けています。
その箱書が道具の評価を左右するということなのですが、
箱書は、いったい何を意味しているのでしょうか?
箱書を書くのは誰?
茶道具は、通常、桐や杉の箱に収められていて、
箱の中に入っているものがどんなものかわかるように
蓋の表、時には裏側に、箱書きが行われます。
箱に書付けをする人は、概ね以下の3つのパターンに分けられます。
1.作者
題名などを記し、署名をします。
押印する場合もあります。
「自分が作成したもの」という証明をするための箱書です。
2.鑑定家等
鑑定家や子作家の孫などが、「●●の作品に間違いない」と
真贋を保証する箱書を書くことがあります。
道具の持ち主が、鑑定を依頼した上で、
書き付けてもらう場合が多いようです。
3.道具の所有者
道具の持ち主が、管理や記録を目的として、
箱に書き付けをすることがあります。
作者や鑑定家の書き付けのある箱に、さらに外箱を作り、
ここに所有者が書き付けをする場合もあります。
箱書に書かれること
基本的に書かれるとこは、「萩焼 茶碗 ●●作」という形で、
種類や形、産地(●●焼など)、作者名などです。
これに、道具の名前である「銘」を加えることもあります。
銘はもともと道具についている場合もありますし、
箱書する人が考えてつける場合もあります。
所有者が箱書をする場合は、手に入れた経緯や謂れなどを、
ある程度自由に箱に書き付けします。
なぜ箱書が価値を決めるの?
楽焼の茶碗は、楽家の当主が制作し、
茶道の家元が銘を付け、箱書きを書きます。
こういった箱書きは、作者と権威ある人が中身を保証したという
記録ということになります。
さらに、箱書きは、道具の歴史や銘の由来を記録し、
「誰が所有した」とか「どこで使われた」といったことを
後世に伝える役目も担います。
例えば、「信長が本能寺で使った道具」と言えば、どんなものでも
みなさん興味を持ちますよね。
道具の背景にあるエピソードが、道具の価値を高めるのです。
道具の価値は、道具そのもの、箱書きを書いた人、箱書きの内容
の組み合わせで決まるということになります。
我が家の箱書
私の父は道具コレクターで、加えて「箱書きマニア」でした。
どんな道具にも箱を作っては、何らかの箱書きをしていました。
道具の形や産地の記載に止まらず
「●年●月、家族旅行で出かけた上海で求める」
といった記録も付けていました。
また、とんちのきいた銘をつけては、楽しんでいました。
イタリアのアッシジで購入した茶碗(カフェオレボウル)には
「葦路(あしじ)」と当て字の銘がつけられました。
修学旅行で、私が小遣いで買ってきた出雲塗の棗にも箱を作り、
「はなが初めて求めた道具」と書き付け、「蛙の子」という銘まで
つけていました。
「蛙の子は蛙」というわけです。
父が亡くなった後、たくさんの道具が遺されましたが、
箱書きを見れば、どんな由来の道具であるかがすぐに解ります。
箱書きには、道具の価値、さらに、家族の思い出まで
子孫に伝えるという役割もあるのです。
箱書で歴史を振り返る
古い茶道具は、多くの茶人の手にわたり、
それぞれに大切に保管され、現代まで伝えられてきました。
もちろん、道具を鑑賞すればその美しさはわかりますが、
その道具を過去にどのような人の手に触れたかは、
道具だけ見てもわかる人はいないでしょう。
道具の辿った歴史を端的に語ってくれるもの・・
それが、箱書きです。
道具と併せて箱書きもよく拝見し、
その道具が辿った歴史にも思いを馳せてみてください。
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