「たぬき」といえば、人を化かすイメージですね。
この演目も、人間同士の化かしあいが
テーマになった話です。
笑いが起こる喜劇なのですが、
人間の表と裏の態度の違いがあからさまに描かれていて、
終わった後には、なんとなく切なくなるお話です。
あらすじ
「たぬき」は火葬場のシーンから始まります。
火葬場では、柏屋金兵衛の葬式が営まれています。
この金兵衛は養子でありながら、
吉原で放蕩三昧をしてすごし、ある日、
酒を飲んで帰った後に疫病でぽっくりと亡くなってしまった
とのこと。
女房も愛想が尽きていたらしく、
「お骨は明日届けて」と言って家に帰ってしまいます。
ところが、皆が帰った後、金兵衛が息を吹き返します。
金兵衛は
「これはチャンス!
自分はこのまま死んだこととして、
妾のお染と暮らくことにしよう」
と考えます。
金兵衛が死んで、さぞかし悲しんでいるだろうと
お染の所へ向かうと、全く悲しんでいる様子はみえず、
それどころか、愛人がいていちゃついていました。
怒った金兵衛。
お染が金兵衛を幽霊と勘違いして気絶した間に、
お染が自分から引き出した金を取り返して、
去っていきました。
それから、2年後。
金兵衛は、名を変え、全く新しい人生を始め、
成功を収めていました。
金兵衛は、柏屋が恋しくなったのか、
柏家の近くに現れます。
すると、女中に連れられた金兵衛の息子、
梅吉が通りかかります。
梅吉は金兵衛を見て父親だと気がつき
「ちゃん!」
と呼びかけます。
うろたえる金兵衛ですが、化けの皮がはがれたことを悟り、
柏屋へと向かうのでした。
思い出
私がこの演目を観たのは、2014年の8月。
10代目の三津五郎さんが金兵衛の役でした。
そして、梅吉は、三津五郎さんの盟友であった勘三郎さんの孫で
3歳の七緒八くん。
三津五郎さんは、金兵衛の感情の変化を
とても上手に演じられた上、
七緒八くんに、とても温かい目を注いでいたのが
印象的でした。
その三津五郎さんも、その舞台から半年後に
天国に旅立たれてしまいました。
本当に寂しい限りです。
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