今回は初心者でもわかりやすく、
スピード感あふれる物語で人気の
能の演目『土蜘蛛』の
あらすじや見どころをご紹介します。
源頼光が土蜘蛛退治に使った宝刀・膝丸を、
蜘蛛切と改めたエピソードが
土台となっています。
無数の蜘蛛の糸を投げかける面白さや、
その糸が放物線を描く美しさは、
『土蜘蛛』の見どころとして有名です。
その見どころを
前場・後場とも網羅した動画も
ご用意しました。
また、隠れた見どころ
宝刀「蜘蛛切」の秘密についても
解説していますので、
チェックしてみてくださいね。
土蜘蛛のあらすじは?
まずは能の演目「土蜘蛛」のあらすじを
簡単にご紹介します。
重い病に伏せる源頼光に
侍女の胡蝶が薬を携え参上します。
しかし頼光の具合は一向に好転せず、
益々の苦しみを見せます。
夜も更けた頃、
どこからともなく
見知らぬ僧が頼光のもとへと現れ、
病の様子を尋ねました。
怪訝に思いその名を問うと、
僧は、
「わが背子が来べき宵なりささがにの」と
古今集の一節を歌いつつ頼光に近づき、
いきなり蜘蛛の糸を浴びせ掛け、
その身を絡め取ろうとしました。
頼光がとっさに
枕元に置いておいた
源氏重代の宝刀・膝丸を抜き
切り付けると、
僧は無数の糸筋を投げかけ、
姿を消してしまいます。
事態を察し駆けつけた近侍の独武者に
頼光は今しがたの出来事を語り、
源氏宝刀の太刀の号を
膝丸から蜘蛛切に改めると告げ、
化生の物の討伐を命じます。
血の後を追った独武者と従者の一行は
やがてとある古塚へと辿り着き、
そこで千筋の糸を投げ掛ける土蜘蛛の精と
激しい戦いを繰り広げ、
とうとう最後には土蜘蛛を討ち、
都へと凱旋して行くのでした…。
土蜘蛛の見どころはここ!土蜘蛛の糸はどう表現している?
出展:http://www.kandamyoujin.or.jp/kandasai/h17/index.html
能の演目「土蜘蛛」の見どころといえば、
初心者でもわかりやすく、
変化に富んだ物語と、
言わずと知れた蜘蛛の糸。
放物線を描くようにシテから放たれる
千筋の蜘蛛の糸は、
観ている者を圧倒させ、
また大いに楽しませてくれます。
この投げられて広がる蜘蛛の糸は、
金剛流で考案され、
「千筋の伝」の名で評判を得たものでした。
和紙を固く巻いて切ったもので、
錫や鉛でできた芯が入っているため、
広がるように飛びます。
現在は細い紙がほとんどですが、
かつてはテープのような太さの物も
使われていたようです。
また、隠れた見どころとして、
刀「蜘蛛切」にもご注目ください。
「蜘蛛切」は
源氏に代々宝刀として受け継がれた
二口の刀のうちの一つで、
代を重ねる中でその名を変えていきました。
能『土蜘蛛』にあるように、
頼光は土蜘蛛を切ったことで
それまで「膝丸」と呼ばれていた
その宝刀の名を「蜘蛛切」と改めました。
また源為義の代には「吠丸」、
さらに源義経の手に渡り
「薄緑」と号を改めました。
尚、諸説ありますが、
現在の所在は、
京都大覚寺に所蔵されている
国の重要文化財「薄緑」ではないかと
いわれています。
土蜘蛛の謡の詞章の一部を現代語訳付きで紹介!
能の演目『土蜘蛛』の、
前場の見どころである
僧の登場場面の謡の詞章を、
現代語訳とともにご紹介します。
シテ
いかに頼光
御心地は何と御座候ぞ
もし、頼光どの。
お加減はいかがかな。
頼光
不思議やな
誰とも知らぬ僧形の
深更に及んで我を訪ふ、
その名はいかにおぼつかな
不思議なものだ。
身も知らぬ僧の姿をした者が、
この真夜中に、私を見舞うとは。
その名は何という。
怪しいやつめ。
シテ
愚かの仰せ候や、
悩み給ふも
我が背子が
来べき宵なり
ささがにの
今さら何をおっしゃるのやら。
病気に苦しまれるのも私の仕業。
古歌にいう
「我が背子が来べき宵なりささがにの
(蜘蛛のふるまひ かねてしるしも)」
「我が夫の君がお出でになるのは
今宵のようだ。
(蜘蛛の動作にそれがあらかじめ
はっきりと示されているもの)」の
言葉の通り、
頼光
蜘蛛のふるまひ かねてより
知らぬといふに なほ近づく、
姿は蜘蛛の如くなるが
蜘蛛の振る舞いだと?!
お前のようなやつは、
初めから見たこともないと言っているのに、
構わずに近づいてくる。
なるほどその姿は蜘蛛のようなのが、
シテ
懸くるや千筋の糸筋に
さっと無数の糸の筋を投げかけるや、
頼光
五体をつづめ
頼光の体をすくませて、
シテ
身を苦しむる
その身を苦しめるのだ。
土蜘蛛の代表的な場面を動画で紹介!
土蜘蛛の名シーンといえば、
シテが無数の糸を投げかける場面です。
前場と後場、
両方の、糸を投げかける場面を網羅した、
まさにおいしいとこ取りの動画を
見つけましたので、
ぜひご覧ください。
動画を通しても見事な場面ということは
伝わると思いますが、
初心者でもわかりやすく
大変見ごたえのあるお能ですので、
ぜひ生でご覧いただきたいですね!
まとめ
能を見に行くようになって早十数年、
いろいろな演目を、
いろいろな方と観に行きましたが、
やはりこの『土蜘蛛』だけは
誰も寝ることはありません!
むしろ誰もが夢中になって観ていますね。
初めての方をお連れするには
うってつけの演目と
いえるのではないでしょうか。